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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)121号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取り消すべき事由の存否について判断する。

原告は、引用例1記載の考案における塩化ビニール薄板とガラス繊維断熱材との接着の範囲及び態様の双方に亘り、審決の認定を攻撃するが、以下には、先ず、接着の態様を確定し、次いで、その範囲を検討することとする。

1  成立に争いがなく、かつ引用例1と記載内容が同一であることについて当事者間に争いのない甲第四号証(実開昭四七―二五二五九号の実用新案登録願書及び昭和四六年七月二日付手続補正書)によれば、引用例1記載の考案は、建物の天井、壁の内装等に用いる断熱材に関するものであつて、実用新案登録請求の範囲は、「予め多数の凹凸を形成せしめてなる塩化ビニル系合成樹脂シートを少なくとも片面に接着具備してなる無機繊維質断熱材」(別紙図面(二)参照)というものであつて、その明細書の考案の詳細な説明には、「塩化ビニル系シート及び断熱材3は両者の多数の接点において接着されている。」(明細書第二頁第三、第四行)と記載されていること、右無機繊維質断熱材としてガラス繊維断熱材が例示されており、また、塩化ビニル系合成樹脂シートの厚みは〇・〇七mm以下の薄手のもので充分であり、右シートの多数の凹凸による上面と下面間の深さは一般には〇・五mm以上である方がよい旨示されていること、そして、引用例1記載の考案の作用効果について「塩化ビニル系シートは多数の凹凸を形成したものであるため断熱材本体3に接着後使用される(「使用され」は「使用される」の誤記と認める。)熱の影響などで収縮する作用を受けても該凹凸部にて吸収されるため、断熱材3からはがれたり反つたりすることがない。」(明細書第二頁第九ないし第一三行)、「多数の凹凸を有する塩化ビニル系の樹脂質シートを接着した断熱材であるため、両者がはがれる恐れもなく使用可能でかつ防湿、防音、断熱性能は何ら阻害されるものでなく工業的に格別の効果をもたらすものである。」(同第四頁第三ないし第七行)と記載されていることが認められる。

一方、成立に争いのない甲第二号証(本願実用新案登録願書)、第三号証(昭和五七年一〇月六日付手続補正書)によれば、本願考案も天井板、壁材のような内装材に関するものであつて、本願明細書の考案の詳細な説明には、前示実用新案登録請求の範囲第1項記載のとおりの構成を採用したことにより、その作用効果として、「(塩化ビニール)薄板の深しぼり部が硝子繊維の間に入り込み馴染み性を向上させるとともに温度差に起因する塩化ビニール薄板の膨脹収縮が深しぼりによる凹凸に吸収され剥離が生じ難くなるとともに、硝子繊維板と塩化ビニール薄板は部分的に接触するので薄板の自由振動が妨げられることなく吸音性が低下することがない。」(明細書第四頁第一〇ないし第一七行)と記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、本願考案及び引用例1記載の考案はいずれも、ガラス繊維断熱材に多数の凹凸を有する塩化ビニールシートを接着した、壁、天井の内装等に用いる積層体に関するものである点で一致しており、塩化ビニールシートの厚み及びその凹凸の深さについても両者間に特段の差異はなく、その作用効果においても格別相違するところは存しないことは明らかである。

右のとおり、本願考案と引用例1記載の考案との間には、構成材料に差異がなく、また、その作用効果に格別の相違が存しない以上、前記各作用効果を奏すべき一要因である塩化ビニールシートとガラス繊維断熱材との接着の態様においても、両者間に相違するところはないものと認めるのが相当であり、引用例1記載の断熱材においても、本願考案におけると同様に、塩化ビニールシートの凸部(本願考案における「しぼり部」に相当する。)の一部がガラス繊維断熱材内に入り込むように接着しているものと解される。

2  原告は、引用例1に、前記認定のとおり、「塩化ビニル系シート及び断熱材3は両者の多数の接点において接着されている。」と記載されていることを根拠として、引用例1記載の考案に係る断熱材においては、塩化ビニールシートの凸部の先端のみが断熱材に接着していて、凸部の一部が断熱材内に入り込むように接着してはいない旨主張し、その技術上の理由を説明している。

引用例1には、塩化ビニールシートをガラス繊維断熱材に接着する方法について明示されていないが、板状体と板状体とを接着して貼り合わせる場合に、接着面に接着剤を塗布して重ね合わせ、押圧して接着後も接着時の状態を保持するようにすることは普通に行われていることであり、引用例1記載の考案においても、塩化ビニールシートをガラス繊維断熱材に接着するについて、右押圧接着の方法によるものと認められる。そして、本願明細書にも、本願考案に係る内装材について、塩化ビニール薄板と「硝子繊維板」との接着方法については何ら記載されていないが、右と同様の理由により、本願考案においても右押圧接着の方法によるものと認められる。

ところで、多数の凹凸が形成されている塩化ビニールシートをガラス繊維断熱材に押圧して接着すると、凸部(本願考案においては「しぼり部」)はガラス繊維の間に入り込み、そのままの状態で接着するものとみるのが技術上当然のことであつて、この点において本願考案と引用例1記載の考案とが相違するとは認め難く、たとえ原告の指摘するようにガラス繊維断熱材の復元性が大きいものであるとしても、接着時の押圧から開放された場合に、本願考案に係る内装材についてはそのようなことがないのに、引用例1記載の考案に係る断熱材については、押圧時にガラス繊維断熱材内に入り込んだ塩化ビニールシートの凸部の一部が押し出され、その先端のみでガラス繊維に接着すると認めなければならないというのは合理的理由がなく、この点に関する原告の主張は到底肯認し難いところである。

そして、引用例1の前記「塩化ビニル系シート及び断熱材3は両者の多数の接点において接着されている。」との記載は、塩化ビニールシートの凸部が断熱材内に入り込んで、そのままの状態で、断熱材を構成しているガラス繊維と多数の接点において接着されているという趣旨に解すべきものであることは叙上説示したところから明らかであつて、右記載をもつて、引用例1記載の断熱材においては塩化ビニールシートの凸部の先端のみが断熱材に接着しているものと解する原告の主張は相当ではない。

3  原告は、本願明細書の考案の詳細な説明に、「該塩化ビニール薄板のしぼり部の一部が硝子繊維板内に入り込むよう」(明細書第三頁第八、第九行、昭和五七年一〇月六日付手続補正書8項(2))、「塩化ビニール薄板3を該塩化ビニール薄板のしぼり部の一部が硝子繊維板内に入り込むように接着する。」(明細書第三頁第一二行、右手続補正書8項(3))と記載されており、願書添附図面に示されているしぼり部がいずれも「硝子繊維板」に高さ方向の一部分が入り込んでいることをもつて、本願考案の「塩化ビニール薄板のしぼり部の一部」とは、「塩化ビニール薄板に設けた全部のしぼり部につき、それぞれの一部分」の意である旨主張するが、明細書及び図面の右記載から直ちに、右主張のように解することは相当ではない。

本願考案における塩化ビニール薄板の厚みは一〇〇~四〇μであり、しぼり部の深さは厚みの二倍以上のものであるから、しぼり部の深さは〇・八mmという非常に小さなものからそれ以上のものがあるということができ、他方、「硝子繊維板」は「硝子繊維」で形成されていて、その表面は平滑なものでないことは明らかであるから、本願考案に係る内装材において、塩化ビニール薄板の全部のしぼり部につき、それぞれのしぼり部の一部分が「硝子繊維板」内に入り込むようにして接着するものであるかどうか疑わしいが、仮に、右「塩化ビニール薄板のしぼり部の一部」が原告主張のとおりであるとしても、前1、2項に説示したところからして、引用例1記載の断熱材においても、塩化ビニールシートとガラス繊維断熱材とが同様の範囲に亘り接着しているものといつて妨げないものというべきである。

以上のとおりであつて、引用例1記載の断熱材においても塩化ビニールシートの凸部の少なくとも一部はガラス繊維断熱材内に入り込むように接着されているとした審決の認定に誤りはない。

したがつて、審決の右認定に誤りがあることを前提とする原告主張の審決取消事由は理由がないものというべきである。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本件における登録請求の範囲は左のとおりである。

1  厚みの二倍以上の深さを有するしぼり部をしぼり部の占める面積が薄板面積の二〇%以上となるようにしぼり部を多数設けた厚み一〇〇~四〇μ、可塑剤の含有量三%以下の塩化ビニール薄板を該塩化ビニール薄板のしぼり部の一部が硝子繊維板内に入り込むように接着してなる内装材(以下、「本願考案」という)。

2  塩化ビニール薄板に帯電防止剤を含有せしめた実用新案登録請求の範囲第1項記載の内装材。

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